これは、「夢を観るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集 1997年ー2009年」村上春樹(文藝春秋)の中の言葉。
(2011年6月に行われた最新インタビューのオリジナル収録した文庫版は、こちら)
97年から09年までに行われたインタビュー集。日本のほかアメリカ、中国、ドイツ、フランスなど、世界の編集者や作家から直接受けたインタビュー、およびメールでのやりとりを一冊にまとめたもの。
私だけかもしれないけど、文章にかかわる仕事をしている人であれば、とてもしっくりくる内容ばかりだと思う。書くことに至った経緯、なぜ肉体を鍛えるのか、長編を書くにあたって必要なもの、海外での生活で得たもの、など、村上春樹の本を長らく読んでいる人ほど、うんうんと頷く、そしてそういうことだったのか、とヒザを打つ内容が綴られている。
彼は、いわゆる夜の付き合いをほとんどしない。業界の人々や同業者とも、つるまない。規則正しい生活を送る。そして、カラダを鍛える(主に走ること)。それだけではなく、さらに作家に必要なものとして、「健全な肉体に宿る不健全な魂」を挙げている。それは、彼が考える、長編を書くにあたって必要な要素、という。健全な魂では、文章の中身が健全になりすぎる。不健全な魂があってこそ、心の闇を描ける、ということ、ふむふむ。
いわゆる(使いたくない言葉だが)クリエイターと言われる制作の人にとって、朝までお酒を飲んで朝帰りしたり、大勢で宴会をしたり、ということは、まあ普通だったりする。もちろん作家とはちがい、広告制作などは集団でモノづくりを行うので、そもそも別物でもあるのだが、個人的には村上春樹の考え方、私は賛同。
好きなジャズからの教訓が3つあり、小説に応用しているという。それは、リズム、ハーモニー、そしてインプロヴィゼーション(即興)。確かに、文章はリズムが大切、さらに内容が調和しているか、そして勢いでががーっと書き綴る即興性があってこそ、読者も引き込まれる。
さらにクラシックについて。翻訳について触れているインタビューでは、柴田元幸の翻訳を「バッハの音楽に似ている」と表現する。シンメトリカルというか、どこかで数学的というか。不思議な世界を生み出すけれど、とても理性的(褒め言葉)。でも彼は、物事がぐちゃぐちゃのほうが居心地がいいらしい。非理性的、ティム・オブライエンやカーヴァーの世界に惹かれる、と。そうか、バッハは理性的かもしれない。退屈なもの(褒め言葉)も含めて。
あともう少しで読み終わるのだが、終わってしまうのがもったいない。
この一冊はめずらしく、ある女性に捧げる一冊とあとがきに記してある。平凡社「太陽」に在籍し、その後会社が替わっても編集を担当されていた女性、岡みどりさん。村上春樹ファンならよくわかると思うが、通称オガミドリさんへ、というもの。一緒につくった最後の本だそうだ(病気でお亡くなりになっている)。
下はペーパーバック版(左)と、文庫版(右)。
海辺のカフカに出てくる、レディオヘッドのアルバム「Kid A」。久しぶりに聴きたくなった。
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