SNACは、催しによるが私にとって思い立ったら即行けるところ。今回は、朝連絡をして14:00の回にうかがった。普段このスペース、無人島プロダクションのギャラリーとしても活動している。わかりづらいかもしれないが、SNACとしては映像や芝居、イベントなどの活動を、この同じスペースで行なっている。つまり、二毛作みたいなもの。現在はギャラリーが休廊中で、ほかのイベントでいろいろと活動中のよう。
演出家で映像作家の村川拓也さん。ちょっと前かがみに映っている左の方です。村川さんを初めて知ったのは、昨年秋。東京国立近代美術館が開館60周年記念イベントとして、「14の夕べ/14EVENINGS」という催しを行なっていた。その演目のひとつが、村川さんによる「ツァイトゲーバー」だった。この芝居というか試みを見て、なんとも不思議な実験をする興味深い方だなあと気になっていた。
このドキュメンタリー映画『沖へ』は、およそ半年間、南三陸町へ通った記録。江戸時代から続く互助会「伊里前契約会」の会長を務める千葉正海氏とそのご家族の様子を追ったというもの。
テレビであれば、テロップが流れてナレーションが聞こえてくるが、この映画は制作者側の言葉がほぼない。必要以上に説明しない。だから、余計なものがないフラットな状態で観ることができた。それが、なによりもよかった。
いわゆるドキュメンタリーって、音楽がついていて、結局は演出盛り盛りな印象が個人的にはあった。わざとらしい。音楽で逃げるな、そんな印象。余計なテロップも、わざとらしい。結局はドキュメンタリーという名の、演出映像だったりする。でも、この映像はぜんぜんちがった。そこも好印象。
当初の千葉さんの表情から、徐々に疲れていく様子。被災地での避難所生活、大変ではあるけど、明るくいまを生きている家族の様子。言葉はすべて、ご本人たちの飾らないもの。カメラの前をお構いなしにうろつく犬、洗濯物を取り入れる千葉さん。軽トラックでは、キャロルのテープを流しながらノリノリで運転。地域の代表として招かれたシンポジウムのために上京し、その後カラオケ屋さんでダンシング・オールナイトを熱唱。などなど。
被災地で生きる日常が、そこにある、そのまま伝わってくる。もちろん、いろいろ大変だとは思う。
被災地というと、大変でしょう、つらそう、そんな言葉を思い浮かべてしまうが、このような普通の暮らしと同じような日常もあるということを提示する映像に、どきっとさせられた。当然、日常はあるわけです。でもつい、それを忘れてしまいそうになっていたことに、気付かされた。
私が育ったエリアは、北海道の昆布漁を行うところ。なので、船ででかけてワカメ漁を営む姿は、とても懐かしい光景。いるいる、こういうおじさん、田舎には魅力的なおじさんっていっぱいいる。千葉さんや関係者の方々の映像は、くすくすと、ほほえましかった。
村川さんは現在も、南三陸町へ通っていらっしゃるとのこと。続編を制作中だそうなので、それも楽しみ。
上映後、少し村川さんとお話をさせてもらった。千葉さんがあんなにたくさんお話をしてくれたということは、その前から深いコミュニケーションがあったのでしょうか、と質問してみた。そういうわけでもなかったようでした。ほかにもいろいろ、もっと聞いてみればよかった。気遣ってあまり聞けなかった、照れ屋の悪いところです、反省。
この村川さんのこれまでの作品も、とても興味深いものが並ぶ。民俗学者・宮本常一の著作を題材とした『小走り/声を預かる』は、『忘れられた日本人』(1960)、『宮本常一写真・日記集成』(2005)をもとに制作。その他、『移動演劇 宮本常一への旅 地球4周分の歌』 ( 引用文献:宮本常一/10 ) という作品もある。
ドキュメンタリーの手法や言葉の解釈が、とても独特な方という印象。宮本常一が行なっていた、その土地へ出向き、土地の方の話を聴くフィールドワークに共感し、ご自分なりのリアリティや言葉についての解釈と答えを、ドキュメンタリー作品や舞台活動へフィードバックしているのでしょう。
言葉、リアリティの解釈などについて、村川さんへの興味深いインタビューがあるので、こちらも参考までに。思うに、村川さんの制作するものは、記録写真に近いような気がする。答えを出さずに、観た人に委ねるということかな。
まもなく、横浜で『ツァイトゲーバー』を再演(という表現が正しいか微妙)されます。興味のある方は、ぜひ。
※舞台作品『ツァイトゲーバー』について。
介護の現場で行われる介護する側とされる側のコミュニケーションの様子を、ドキュメンタリーの手法を用い、舞台というカタチで提示する作品です。言葉ってなんだろう、コミュニケーションってなんなのだろう。それらを深く考えさせれました。観客の中から、演技の必要のない介護される側の方を挙手で選ぶ、というのも、ドキドキでした。客いじりということではないですよ、まったく。
私の父が、ほぼ足が難しくなってきていて、介護ヘルパーさんにお世話になっているということもあり、舞台を見ていてとても胸がいたんだけど、かなり心の深いところへボールを投げこまれた、そんな内容でした。
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